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トタンの家に住んで

僕はトタンの家に住んでいます。屋根の上に上ってペンキ塗りをしました。せいぜい数メートルなのに、どでかい山の頂上に登ったような達成感を味わえます。あれは、じつに面白いものです。

弱点もあります。屋根が冷えるのが早いので、冬の天井からの冷え込みはけっこうなものです。まあ、うちには天井がなく屋根がむきだしだからです。そ れをなんとかしたかったので、屋根の上に上って白く塗りました。壁面のトタンは水色にしてあります。飽きたら色を変えられるのも魅惑的。次は、ペイントブ ラック、真っ黒に塗りたいと思います。

一人で塗るのも、修行としてはいいのですが5人ぐらいで塗りますと、ボルテージが上がりますので非常にいい。塗り終わったら、庭でバーベキューで す。祭りは由来がないとできません。トタン屋根は祭りの由来を提供してくれるのです。そのうち屋根の上で宴会したいと思っています。

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タイムリーな話題で恐縮ですが、定額給付金が振り込まれようものなら全部硬貨に換えて屋根の上からバラまきたいと思います。棟上を勝手にやりたい。 こんなことができるもの、トタン屋根のなせる業でしょう。瓦でもできるかもしれませんが、でこぼこしてるので。水平な屋上がある鉄筋建築でもできましょう が、平坦なところから硬貨まいてもなんの雰囲気もでやしません。安定がほしいなら、火遊びしないで凡庸な人生を歩んでください、「おまえ、まだ自分が死な ねえとでも思ってんじゃないか」(戸愚呂弟)、そういうことです。トタン屋根の妙味は、油断すると転落するというあの傾斜が生み出すスリルです。まあ、平 らな屋上もいいんですけども。

あと、これは言っておかねばなりません。雨が降ったときの雨音はトタン屋根が最強でしょう。音を吸収するというより、トタン板と落下してきた水滴に よる、打撃音。バタバタバタと同じリズムのように聞こえて、一瞬たりとも同じリズムで鳴らないトタン音はカオスかつフラクタル。塗装の劣化に従い何回も何 回も塗らねばならないトタン屋根のそれは、トタン音からして、森羅万象、死んで生き返ってくりかえされる諸行無常、それを体現しております。メンテナンス フリーを目指す現代文明がもはや惰性となった進歩に安楽死されようとする中で、不完全性こそが至高の人間性であると無言のうちに主張しているのです。それ を発見せねばなりません。

一見突拍子全開な主張に困惑する方もおられましょうが、しがないサラリーマン家庭出のわたくしですら分かるのですから、かならずや多くの人にも伝わりましょう。あえて、これを表現するならこう発せられるに違いありません。

「ヤバイ」と。

そう、トタン屋根は、原始仏教の循環する自然観を人工物である建築に見事に凝縮した人類史上まれにみるヤバイ屋根と言えましょう。

2009年3月11日